最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)882号 判決 1970年7月24日
上告人
仲川電気工業株式会社
上告人
仲川金助
右両名代理人
佐野正秋
香川文雄
被上告人
小松フヂ
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人佐野正秋、同香川文雄の上告理由一、二について。
上告人仲川金助による加害自動車の運転状況と被害者たる被上告人の行動および現場の交通事情等、本件事故発生当時における事実関係について原審(第一審判決引用部分を含む。以下同じ。)の認定するところは、挙示の証拠関係に照らし、首肯することができ、右事実関係によるときは、本件事故は同上告人が自動車運転者としての注意義務を守らなかつた過失に基因するものというべく、被上告人にも歩行者としての注意義務違反があるにせよ、いわゆる信頼の原則を適用して同上告人に過失の責がないということはできないとした原審の判断は、正当であつて、右認定判断に関し、原判決に、所論のような理由不備、審理不尽等の違法は認められない。論旨は、その実質において、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものか、その認定にそわない事実を前提として原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
同三について。
被上告人が本件事故による負傷のためたばこ小売業を廃業するのやむなきに至り、右営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつて、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではないとした原審の判断は正当であり、税法上損害賠償金が非課税所得とされているからといつて、損害額の算定にあたり租税額を控除すべきものと解するのは相当でない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同四について。
一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴を提起した場合、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部についてのみ生じ、残部には及ばないが、右趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権の金部として訴求したものと解すべく、この場合には、訴の提起により、右債権の同一性の範囲内において、その全部につき時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当である。
これを本件訴状の記載について見るに、被上告人の本訴損害賠償請求をもつて、本件事故によつて被つた損害のうちの一部についてのみ判決を求める趣旨であることを明示したものとはなしがたいから、所論の治療費金五万〇一九八円の支出額相当分は、当初の請求にかかる損害額算定根拠とされた治療費中には包含されておらず、昭和四一年一〇月五日の第一審口頭弁論期日においてされた請求の拡張によつてはじめて具体的に損害額算定の根拠とされたものであるとはいえ、本訴提起による時効中断の効力は、右損害部分をも含めて生じているものというべきである。
したがつて、これと同旨の見解に立つて、上告人らの時効の抗弁を排斥すべきものとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)